2010/05/18

First Sale ルールは日本にもあるのか?

米国でFirst Sale ルールが改正されそうだという話を以前にこのブログで取り上げました。
(2010/01/18 米国のFirst Sale ルール

ところで最近、海外のSNS である Linked Inの中のtrade community で、First Sale ルールは日本にも適用されるとする記事を見つけました。 私自身はこの意見には懐疑的なのですが、根拠とする法令と、そのスキームは以下のように紹介されています。

根拠法令: 商法551条 - 558条(問屋営業: 要はbroker業務)と、関税法第95条(税関事務管理人)

ざっくり乱暴に言ってしまうと、
日本に居住しないものが日本で税関手続きを行う場合には、自らの代わりに税関手続を行う税関事務管理人を定めて、代理として税関への輸出入申告手続きを行うことができます。(その際に、税関事務管理人が通関業務を行う場合は通関業の免許が必要です。) この場合、税関事務管理人を指名した非居住者は、海外の製造業者と取引をして、製品を直接に製造業者から日本へ輸出するとします。この場合の取引は、海外での非居住者と製造業者との取引が輸入取引に該当することになるので、First Saleと同様の関税削減効果が見込める、という理屈です。

確かに言われればそうですが、この場合は日本に支店や法人がないことが前提ですので、使えるケースも限られてきそうです。

それ以上に、心配なことがあります。2007年6月に改正された関税定率法基本通達の4-1 (2)、 イ、 (ロ)では以下のように、First Sale のようなトランザクションタイプを明確に否定しています。

4―1 法第4 条((課税価格の決定の原則))に規定する「輸入取引」の意義及び取扱いについては、次による。

(2) 輸入貨物について複数の売買が行われている次のような場合は、それぞれ以下のとおり取り扱うものとする。

イ.  貨物が外国から本邦へ輸出される前に当該貨物を本邦へ向けて輸出する目的で複数の売買が行われた場合には、当該貨物の本邦への輸出を現実にもたらすこととなった売買を輸入取引とする。例えば、次のような場合には、それぞれに定めるところによる。

(ロ) 外国の卸売業者と本邦の居住者との間で貨物を当該外国から本邦に向けて輸出することを目的とした売買契約が締結された後、当該契約を履行するために当該卸売業者と当該外国又は第三国の生産者との間で当該貨物の売買契約が締結され、当該貨物が当該生産者から本邦に向けて輸出された場合は、当該卸売業者と当該生産者との間の売買は当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買から派生したものに過ぎず、当該貨物の本邦への輸出は当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買により現実にもたらされたものであることから、当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買が輸入取引となる。


この基本通達がありますのでFirst Sale の関税評価方式は、日本では認められないと思っていました。
ただし、法の方が通達より優先され上位にありますし、通達はあくまで行政機関内部における統一的な指針であり、法により保障された国民の権利・義務を直接に制限するものではない、とする意見もあるようです。(個人的にはおっかないなあと思いますが。。。)

この関税法第95条を盾にFirst Saleと同様な効果を日本で実現しようとするには、相当のリスクを覚悟せねばならないでしょうね。

2010/05/13

コピー機内に輸出管理該当情報はないか?

筆者の米国の同僚のブログに興味深い記事がありましたので紹介します。

どこのオフィスでもコピー機は置いてあるでしょうが、そのコピー機で2002年以降に製造されたモデルの大部分は内部にハードディスクドライブを備えていることは意外と知られていないようです。
そのハードディスクドライブには、コピー機にかけた情報が満載です。

通常、オフィスコピー機はリース契約で古くなると、業者さんが引き取りに来て新しい機種に置き換えたりします。古いコピー機のハードディスクはどこにいくのでしょうか?

CBSイブニングニュースの記事で、こういった古いコピー機から個人情報・機密情報が出るわ出るわという潜入体験レポートを読みました。こんな情報を含んだままのコピー機がジャンク品下取りということで売買され、海外にコンテナーに詰められて輸出されることも多いそうです。
http://www.cbsnews.com/stories/2010/04/19/eveningnews/main6412439.shtml


技術の進歩に伴い輸出管理の仕事でカバーすることも多くなります。最近ではクラウドコンピューティング、でもって今度はコピー機までも管理対象?? ため息が出そうです。。。

このコピー機のケースは、輸出管理だけでなく、企業としての秘密保持・個人情報保護の分野でもあります。コピー機のハードディスクは使用後、データー消去、あるいは粉砕するとか、機微な情報のコピーはセキュリティのかかったコピー機でのみ行うとか対策が必要でしょうね。

2010/05/04

エリトリアを通常兵器CA国連武器禁輸国に追加


4/29付けの経済産業省パブリックコメントで、輸出貿易管理令の一部改正政令案が出されました。

内容は、エリトリアを通常兵器キャッチオールの国連武器禁輸国(別表第3の2)に追加するという簡単な内容です。これに追加されると、エリトリア向けの輸出の場合は、通常兵器キャッチオールの客観要件(用途要件のみ、WMDキャッチオールの需要者要件は必要なし)の審査が輸出者自身の判断で必要になります。

これは昨年12月にた国連安全保障理事会において、エリトリアに対する武器禁輸等を内容とする安保理決議第1907号が採択されたことを踏まえたものだそうです。

エリトリアは、エチオピアとスーダンに国境を接する人口470万人の小国。日本からの輸出は2007年のデーターで、年間で約4億円と小規模で、輸出主要品目は乗用車、トラック、バスなど、です。


パブコメの期限は5月28日です。

2010/04/30

香港、今年二度目の輸出管理リスト改正

香港の輸出管理リストが改正されることが本日発表になりました。
今年の2月に一度リストを改正していますので、今年二度目の改正になります。
要点は:

  • ワッセナーの2009年リストを反映する。日本のリストは今年4月から反映してますので、香港も日本に追いつく形になります。
  • 品目として大きな影響がありそうなのは、Schedule 1に、Category 5 part 2 のAncillary encryption (Note 4) の除外規定が入るので、副次的暗号製品が除外品目になること。
  • Schedule 2 から暗号製品を除外するそうです。今までは機微な品目としてトランジットでも輸出入ライセンスを必要とするSchedule 2品目に(武器や原子力と並んで!)暗号製品も入ってました。これは緩和措置でしょう。

いつから施行されるかはまだ明記されておらず、必要な法的手続きが済み次第ですが、前回のペース(12月発表で2月施行)を考えると7月頃でしょうか。

2010/04/28

米国輸出管理の「一つの」改革案

すでにご存知の方が多いと思います、が2010年4月20日にロバート・ゲーツ米国防長官が、輸出管理改革案を発表しました。 改革案要旨は以下の通りで、キーワードは「ひとつにする」です。
  • 一つの管理品目リストと規制ユーザーリスト: EARとITARでバラバラな品目リストや規制ユーザーリストをひとつにまとめる
  • 一つのライセンス発給省庁: これも商務省管轄と国務省管轄の別々のライセンスのことを言っています。
  • 一つの違反執行機関: 商務省内の執行機関、税関やFBIなど複数の執行機関
  • 一つのITシステム: これも商務省のSNAP-Rと、国務省のDTradeに分かれています。


実現にはフェーズを3つに分けて順次取り掛かるようです。ただし最終的には連邦議会の承認と法改正が必要なので、そこには時間がかかるでしょう。

でもこの「一つの」管轄省庁、簡潔にして改革する、と大げさにいってますが、これって日本を含めた多くの他国の輸出管理システムはすでにそうだと思いますので、米国のシステムは今までがダメだったわけで、ようやく他国に追いつく試みをスタートさせたと思うのは私だけでしょうか?


2010/04/27

マレーシア Strategic Trade Bill 2010について

先週一杯まで、北京での輸出管理セミナーに参加しておりました。なぜか北京のホテルからはこのブログサイトにアクセスできませんでした。他のサイトはほぼ問題なくアクセスできたことを考えると、Googleのブログサイトなので、おそらく中国国内からは検閲でアクセス不可だったのでしょう。


マレーシアは従来、4大レジームに対応する有効な国内の輸出法規制が存在せず、イランやリビアへの横流れの「抜け穴」と見られていました。
しかし状況は変わりそうです。2010年4月上旬にマレーシア国会で Strategic Trade Bill 2010が可決され、マレーシアも先進国並みの輸出管理法制度を備えるべく、第1歩を踏み出しました。
この背景には米国政府からの強い圧力があったとも言われています。
この法案はすでに英語で公開されています。以下はその法案を読んでのポイント概略です。

  • 規制品目リストは未だ未発表:  一番気になるのは規制品目リストがワッセナーのデュアルユース品に対応していて番号がECCNタイプなのかどうかでしょう。これは実はまだわかりません。Strategic Trade Bill 2010には、後日 Gazette に大臣により発表されるとあるだけです。
  • 規制対象のトランザクションは、輸出だけでなく、transshipment, transit, brokering, intangible technology transfer と広範囲を網羅している。また、大臣は規制エンドユーザーを指定することができるとあります。国連安保理決議 1540号 (UNSCR1540) や、キャッチオール規制の考え方にに対応する法制と言えます。
  • 厳しいペナルティ:  違反への罰則は、最高で死刑・終身刑です。(これは故意の違反で武器にに関連し、そして違反の結果死者が出た場合に限定されます。) しかし故意でなく、違反品目が武器以外であったとしても、個人には5年を超えない懲役・500万リンギット(US$で約150万)、法人には1,000万リンギット(US$で約300万)が最高と厳しいものになっています。
  • 管轄省庁はおそらく Ministry of International Trade and Industry ("MITI") と言われている。(法令上は言及しておらず、後で大臣を指定する形。ニュース発表ではおそらくMITIであろうとのことです。)
  • 域外適用条項あり: 条文では米国の輸出管理の様に域外適用を言及しています。ただし実際の運用はどのようになるかは定かではありません。
    Extra-territorial application4. (1) This Act shall, in relation to any person, whatever his nationality or citizenship, have effect outside as well as within Malaysia, and where an offence under this Act is committed by any person in any place outside Malaysia, he may be dealt within respect of such offence as if the offence was committed at any place within Malaysia.
結論から言うと、まだ実際の輸出管理がどのようなものになるか、この法案からでは漠然とした姿しか見えてきません。しかし企業としては、輸出管理体制の構築は一夜ではできませんので、今後の動向をモニターしつつ、下準備を進めておきたいものです。


(Source: http://www.parlimen.gov.my/billindexbi/pdf/DR042010E.pdf )

2010/04/07

タイとマレーシア輸出管理法規制を導入予定

現在、出張でタイのバンコクに来ております。目的はバンコク在住の企業と、当地の米国商工会議所で米国輸出管理についてのセミナー講師を務めることです。
米国輸出管理は域外適用で、第3国からの米国製品の再輸出も規制対象ですので、タイで操業している企業でも知っておく必要があります。

タイの輸出管理の国内法ですが、日本や米国のような4大国際レジームに準拠した法制度はありません。もちろん武器や麻薬とか化学兵器に使える化学品とかは輸出規制はありますが、いわゆるワッセナーのDual-use item の規制は導入していません。
ただしここにきてタイ政府も先進国並みの輸出管理を導入する強い意欲を示しています。
それで筆者は、セミナー講師の傍ら、タイの商務省に呼ばれて先進国の輸出管理についてブリーフィングをすることになりました。今後タイの輸出法規制がどうなっていくかも、このブログでモニターしていきたいと思います。

また、マレーシアでも Strategic Trade Bill が今月に議会を通過し、国連決議UNSCR1540をフォローするためのWMD non-proliferation の国内法を整備します。マレーシアはイスラム国家なのでイランやリビアと結びつきが強く、また先進国並みの輸出管理法制度がないため、迂回輸出の注意国と言われてきました。
今後、新制度導入でこれが変わりそうですし、こっちもモニターしていかないといけません。