2010/05/28

タイ税関、違反自主申告の期間限定キャンペーンを始める

Customs compliance の仕事をしていると、故意でない関税法違反を見つけることがあると思います。
(例: 関税税番の誤り、関税評価の間違い、特恵措置の誤った適用などなど)
そういった場合は自主開示して申告 (Voluntary Self-Disclosure - "VSD") をすれば、後で税関に事後調査で発見されてペナルティを課されるより軽い罰金ですむことがあります。

タイもそうなのですが、今回、タイ税関では「通常の自主開示よりもさらにペナルティが軽くなる」自主開示キャンペーンを2010年9月15日まで行うそうです。これは実は以前にもおこなったことがあるそうで、再実施となります。以下がその話の概要になります。 ただしこのキャンペーンプログラムは全ての輸入者に適用されるわけではなく、税関からのinvitation が必要とのこと。まさに「限られたお客様のあなただけに贈る期間限定ボーナスキャンペーン」です。


"タイ関税局は、事後調査局が2010年5月15日から2010年9月30日までの間、自主開示プログラムを再実施することを許可した。これにより輸入者・輸出者およびその関連企業は、自身を監査し、その自主監査結果から発見された違反の可能性のある事案や関税法違反を自主開示することが可能となる。

輸入関税や税金が不足(例:関税税番の誤り、アンダーバリューでの申告、特恵措置やBOI 特権の使用ミスなど)であると関税局へ違反の可能性のある事案や関税法違反を自己申告した者は、輸入関税とVATのペナルティーを免除される資格が得ることができ、輸入関税とVATの不足分及び1ヶ月につきVATの1.5%の延滞税のみが課せられる。この免除措置は下記の条件が附される。

1) 違反の可能性のある事案や関税法違反は故意に行われたものではない、及び
2) この自主開示プログラムへの参加権利は、一つの会社に一回のみに限られている。(以前にこの権利を利用した企業は、今回のプログラムへの参加は不可。)

規制品目の輸入許可なしでの輸入や、税関への正規の輸入申告なしにハンドキャリー又は密輸によりタイ国内に輸入した者は、故意の関税法違反として見なされ、その場合は税関の自主開示の規定によりペナルティーを取消す資格の取得はできない。
よって関連する企業は、関税法規を遵守し違反リスクを低減する為に、この自主開示による貴重な機会をぜひ利用し、違反の可能性のある事案があれば関税局に2010年5月15日から2010年9月30日までの間に申告をすることをお奨めする。"

2010/05/27

中国の暗号規制をひもとく

先月の北京で行われた輸出管理サミットでは興味深いプレゼンテーションが多く聞けました。
その一つで、ある大手法律事務所のプレゼンで中国の暗号規制についてすごくわかりやすく解説されておられました。その内容サマリーをご紹介します。

1) 中国の暗号規制のいきさつと成り行き
  • 1999年に導入され、輸入、販売、使用、研究開発及び中国国内での商業用暗号製品の製造に関して規制をかける
  • 管轄は SEMB (State Encryption Management Commission - 国家暗号管理局)

2) 1999年の導入時の特徴

  • 商業暗号製品の研究開発、生産、販売、輸入及び使用にはSEMBの事前の認可が必要
  • 外資系企業はSEMBの認可なしに、中国で開発された暗号技術を使用した商業暗号製品の製造や販売はできない。
  • 特に暗号の研究開発には強い制限がかかる。
  • 外国で開発された暗号製品は、中国輸入に際しては、外資系企業の内部使用であれば可能。

3) Core / Non-Core の区別

  • 2000年に出された通達では、暗号規制は、暗号の使用が"Core"機能となる製品にのみ課される。
  • 例としては、PCのオペレーティングシステム、テレビゲーム、携帯電話など
  • SEMBは Core / Non-Core の解釈についてのガイダンスはそれ以降出していない。
  • SEMBには違反摘発のリソースはないし、Core / Non-Coreの判定は自主判断にまかされている。

4) 2007 年から 最近の動向

  • ライセンスの運用について: 外資系企業は外国で開発された商業暗号製品の使用について中国国外との接続については許可され、使用のライセンス・輸入のライセンスの手続き方法が紹介された。
  • しかし、Core \ Non-Coreの区別解釈については依然として不透明なまま。
  • SEMBと中国税関との合同メッセージで輸入許可運用が出された。
  • 2010年の中国関税分類番号で9つの新しい暗号製品を指定(10桁レベル)、例としては8517.62.2910 - Optical Communication encrypted routers など
  • キャッチオール条項もあり、それ以外の関税分類番号でも、輸入者が暗号技術があると「知っている」あるいは「知るに足る」場合もカバー。
  • 例外: 暗号製品が請負製造業者にて輸入されて輸出される場合、暗号製品が一時的に輸入され中国税関の監督下にあり輸出される場合、あるいは保税域内・輸出加工区にある場合など

5) グローバルの暗号規制と中国の比較

  • レジーム: グローバルではワッセナーの規制だが、中国はワッセナーメンバーではなく独自の暗号規制
  • 規制タイプ: グローバルではキー長やアルゴリズムでの規制だが、中国は"Core / Non-Core"が規制の基準
  • 規制のスコープ: グローバルでは通常、輸出規制のみ。しかし香港など一部のアジアの国では輸入も規制。エンドユース・エンドユーザー規制や米国では「見なし輸出」や「再輸出」も規制。中国では輸入、販売、使用、製造、研究開発への規制。
  • 暗号を海外製と自国製で区別: グローバルでは区別なし、中国では区別する。

6) 企業への実際的なアドバイス

  • 製品の分類
  • 税関とSEMBへの対応
  • 規制実施状況のモニター
  • 貿易団体との密な連絡

最後の「実際的な」アドバイスは対して役に立つようなものはありませんし、ブログ内で文字だけにしてしまうといまひとつです。しかし、実際のプレゼン説明はわかりやすく簡潔にまとめてあったので、非常に優れた内容でした。

2010/05/25

Unverified Listに載るには?

先月の北京で行われた輸出管理サミットでは興味深いプレゼンテーションが多く聞けました。
その一つをご紹介します。

ある米国大手機械メーカーのトレードコンプライアンスマネージャーのプレゼンで、"U.S. Export License Conditions and Scope Limitations" というのがありました。
ライセンスの許可条件や、そのカバーする範囲など、つまりはライセンスの附帯条件に関して詳細な講義をたっぷりうけました。全ては書ききれませんが、おもしろいと思ったのは、Unverified List についての説明でした。

米国の輸出ライセンス申請に際しては、(これは日本も同様ですが)、附帯条件が付されることがありますし、申請の前で調査しなければならないこと、輸出後の30日以内の報告義務などもあります。
米国大使館にはSpecial Agents overseas - Export control Officers (ECOs)が駐在している都市もあります。北京、香港、アブダビ、ニューデリー、モスクワなどの都市がそうで、ECOは米国の輸出管理のPre-License Check や Post Shipment Verifications なども行います。

具体的には、輸出ライセンスの申請でconsignee として名前があるこの会社は本当に実在する会社なのだろうか、許可に基づいて輸出された特定の製品は申請通りのエンドユーザーの元にちゃんと設置されているのだろうか(移転されていないだろうか)、などを確認調査したりします。

このような確認調査で、事実と異なる様子が発見された場合は、許可条件違反となりますし、ペナルティも1件につき$25万ドルあるいは価額の2倍がしっかりと課されます。

Unverified List はこのような違反で、存在が確認 (Verify) できなかった米国外のentity をリストして、Red Flag つまり「怪しい」出荷先だと、警告を発しているわけです。
http://www.bis.doc.gov/enforcement/unverifiedlist/unverified_parties.html

Unverified List はDenied Persons List やEntity List に比べていまひとつマイナーな(?)存在のリストですが、過去に怪しい前歴があった事実があるentityです。BISのウエッブサイトを読むだけでなく、このように詳しい方からじっくりと説明を聞くとよく理解できますし、やはり要注意リストですね。

しかしライセンスの附帯条件だけの講義で40枚のスライドを準備され、1時間近くお話されました。
全部の内容はブログに書ききれませんが、このプレゼンターの方の知識と経験の豊富さには脱帽でした。

2010/05/24

NORINCOの優れたコンプライアンス

NORINCOとはCHINA NORTH INDUSTRIES CORPORATIONの略で、実は経済産業省がキャッチオールコントロール規制の中で外国ユーザーリストに掲載している、要は大量兵器拡散の要注意企業ということになります。

実は、このNORINCOですが、自社内ではInternal Compliance Program ("ICP")を保持し、しっかり社内で輸出管理をしていることをアピールしています。

先月に北京にて開催されたExport Control Sumit (*)にてNORINCOがプレゼンを行い、いかに彼らが優れたICPを保持・実施しているかを力説しておりました。

(*) 筆者はこの会議に参加し、発表を聞いてきました。参加企業は主に米国系大企業とその中国法人。ですので米国人のリーガルカウンセル、シニアーマネージメント、トレードコンプライアンスマネージャー、米国BISや米国大使館から、米国人および中国人が大半でした。
日本企業は参加しておらず、日本人も(私を除いて)参加された方はいらっしゃらなかったようです。

その中でNORINCOICP Implementation について素晴らしいプレゼンを行いました。
その要旨は:

  • 確かに軍需産業品目も扱っているが、機械・鉱工業・輸送・インフラ関連の民生品ビジネスが今や売上の85%を占める
  • Weaspon of Massive Destruction ("WMD")の拡散ビジネスには全く関与せず、企業ポリシーとして明確に否定し、ICPでもBasic Value としてWMDには一切関わらないことを宣言
  • ICPでは企業コミットメント、組織としての責任の明確化、コンプライアンスプロセス、教育・トレーニング、記録保持、監査の手続きを明確に定めている
  • 中国国内の法令順守、国連安保理の決議への賛同、国際平和への協力・サポート
  • 社長直轄のICP Council を設置し、コンプライアンスの責任機関とする。またICP Office を日常業務やICP Councilの事務局として設置。
  • Automating Compliance ProcessをITシステムとして導入、自動でトランザクションのコンプライアンスチェックを実施
  • 社外監査として、米国のUniversity of Georgia Center for International Trade & Security からレビューを受ける

このような内容で、ICP implementation の事例としては文句の付けようがなく、ベストプラクティスとして紹介できる内容でしょう。まさに「優れた輸出管理を行っている企業」であり、日本国内ではこのレベルまでには到達していない企業はたくさんあります。

しかし、NORINCOをグーグルでサーチすると、武器取引での後ろ暗い過去や、米国政府からも制裁リストに載ったなど、「要注意取引先」を示唆する過去は簡単に見つかりますし。今現在も外国ユーザーリスト掲載企業ですので、いくら優れたICPを持っていても、輸出に際してはキャッチオールの需要者案件に該当することには変わりありません。

NORINCOに関するこの2つの対照的な事実は、どう解釈すれば良いのでしょうか? いつか外国ユーザーリストからはずされる日が来るのでしょうか? 外国ユーザーリストは毎年のように改正されますので次回の改正、おそらくもうすぐでしょうが、少し注意してみてみたいですね。

2010/05/18

First Sale ルールは日本にもあるのか?

米国でFirst Sale ルールが改正されそうだという話を以前にこのブログで取り上げました。
(2010/01/18 米国のFirst Sale ルール

ところで最近、海外のSNS である Linked Inの中のtrade community で、First Sale ルールは日本にも適用されるとする記事を見つけました。 私自身はこの意見には懐疑的なのですが、根拠とする法令と、そのスキームは以下のように紹介されています。

根拠法令: 商法551条 - 558条(問屋営業: 要はbroker業務)と、関税法第95条(税関事務管理人)

ざっくり乱暴に言ってしまうと、
日本に居住しないものが日本で税関手続きを行う場合には、自らの代わりに税関手続を行う税関事務管理人を定めて、代理として税関への輸出入申告手続きを行うことができます。(その際に、税関事務管理人が通関業務を行う場合は通関業の免許が必要です。) この場合、税関事務管理人を指名した非居住者は、海外の製造業者と取引をして、製品を直接に製造業者から日本へ輸出するとします。この場合の取引は、海外での非居住者と製造業者との取引が輸入取引に該当することになるので、First Saleと同様の関税削減効果が見込める、という理屈です。

確かに言われればそうですが、この場合は日本に支店や法人がないことが前提ですので、使えるケースも限られてきそうです。

それ以上に、心配なことがあります。2007年6月に改正された関税定率法基本通達の4-1 (2)、 イ、 (ロ)では以下のように、First Sale のようなトランザクションタイプを明確に否定しています。

4―1 法第4 条((課税価格の決定の原則))に規定する「輸入取引」の意義及び取扱いについては、次による。

(2) 輸入貨物について複数の売買が行われている次のような場合は、それぞれ以下のとおり取り扱うものとする。

イ.  貨物が外国から本邦へ輸出される前に当該貨物を本邦へ向けて輸出する目的で複数の売買が行われた場合には、当該貨物の本邦への輸出を現実にもたらすこととなった売買を輸入取引とする。例えば、次のような場合には、それぞれに定めるところによる。

(ロ) 外国の卸売業者と本邦の居住者との間で貨物を当該外国から本邦に向けて輸出することを目的とした売買契約が締結された後、当該契約を履行するために当該卸売業者と当該外国又は第三国の生産者との間で当該貨物の売買契約が締結され、当該貨物が当該生産者から本邦に向けて輸出された場合は、当該卸売業者と当該生産者との間の売買は当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買から派生したものに過ぎず、当該貨物の本邦への輸出は当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買により現実にもたらされたものであることから、当該卸売業者と本邦の居住者との間の売買が輸入取引となる。


この基本通達がありますのでFirst Sale の関税評価方式は、日本では認められないと思っていました。
ただし、法の方が通達より優先され上位にありますし、通達はあくまで行政機関内部における統一的な指針であり、法により保障された国民の権利・義務を直接に制限するものではない、とする意見もあるようです。(個人的にはおっかないなあと思いますが。。。)

この関税法第95条を盾にFirst Saleと同様な効果を日本で実現しようとするには、相当のリスクを覚悟せねばならないでしょうね。

2010/05/13

コピー機内に輸出管理該当情報はないか?

筆者の米国の同僚のブログに興味深い記事がありましたので紹介します。

どこのオフィスでもコピー機は置いてあるでしょうが、そのコピー機で2002年以降に製造されたモデルの大部分は内部にハードディスクドライブを備えていることは意外と知られていないようです。
そのハードディスクドライブには、コピー機にかけた情報が満載です。

通常、オフィスコピー機はリース契約で古くなると、業者さんが引き取りに来て新しい機種に置き換えたりします。古いコピー機のハードディスクはどこにいくのでしょうか?

CBSイブニングニュースの記事で、こういった古いコピー機から個人情報・機密情報が出るわ出るわという潜入体験レポートを読みました。こんな情報を含んだままのコピー機がジャンク品下取りということで売買され、海外にコンテナーに詰められて輸出されることも多いそうです。
http://www.cbsnews.com/stories/2010/04/19/eveningnews/main6412439.shtml


技術の進歩に伴い輸出管理の仕事でカバーすることも多くなります。最近ではクラウドコンピューティング、でもって今度はコピー機までも管理対象?? ため息が出そうです。。。

このコピー機のケースは、輸出管理だけでなく、企業としての秘密保持・個人情報保護の分野でもあります。コピー機のハードディスクは使用後、データー消去、あるいは粉砕するとか、機微な情報のコピーはセキュリティのかかったコピー機でのみ行うとか対策が必要でしょうね。

2010/05/04

エリトリアを通常兵器CA国連武器禁輸国に追加


4/29付けの経済産業省パブリックコメントで、輸出貿易管理令の一部改正政令案が出されました。

内容は、エリトリアを通常兵器キャッチオールの国連武器禁輸国(別表第3の2)に追加するという簡単な内容です。これに追加されると、エリトリア向けの輸出の場合は、通常兵器キャッチオールの客観要件(用途要件のみ、WMDキャッチオールの需要者要件は必要なし)の審査が輸出者自身の判断で必要になります。

これは昨年12月にた国連安全保障理事会において、エリトリアに対する武器禁輸等を内容とする安保理決議第1907号が採択されたことを踏まえたものだそうです。

エリトリアは、エチオピアとスーダンに国境を接する人口470万人の小国。日本からの輸出は2007年のデーターで、年間で約4億円と小規模で、輸出主要品目は乗用車、トラック、バスなど、です。


パブコメの期限は5月28日です。