2010/06/10

米国輸出管理改革案Update

業界紙 Inside U.S. Trade の記事によると、米国輸出管理の改革案のUpdate として、ホワイトハウス高官とのインタビューで、省庁間の改革Updateが近いうちに発表される模様。主なものは:

  • BIS, OFAC, と DDTCの様々なリストを一つにする件の詳細
  • シングルITシステムはDDTCのシステムになる模様
  • The Nuclear Regulatory Commission はsingle export agency からは外れるそう
  • 「米国人」や「輸出」の定義が (EARとITAR)で共通の定義となる
  • シングルリストはUnited States Munitions Listとなり、Dual-Use listはそこの追加され、商務省のCCLは消える模様

2010/06/05

マレーシア、トルコとFTA交渉を開始

ニュース報道によれば、マレーシアとトルコが二国間のFTA交渉を正式に開始したそうです。
5月31日と6月1日に最初の交渉がトルコのアンカラで行われたとのこと。

両国はこの交渉を2011年の前半にも終了させる意向で、3か月ごとに交渉を行う。
次回の交渉は8月の23日 - 25日の予定。

2010/06/04

De Minimis計算をしてみよう!(初級編)

米国の再輸出規制でやっかいで複雑なのはDe Minimisルールです。今回はこれを易しく理解できるようケーススタディを通じて解説してみます。

(状況)
あなたはグローバル企業のアジアパシフィックのトレードコンプライアンスマネージャーです。会社は中国に工場を持っていて、部品を世界各地から調達、最終製品を世界各地に出荷しています。
さて今回、中国の工場でハイパワーレーザーポインターを作ります。この製品は米国原産の6A005の部品を使用します。ただしこの6A005の部品は米国からは許可例外のCIVで輸出されています。
また、この製品は中国の工場で米国原産の技術で作られた4A994のコンピューターチップを含んでいます。また中国原産のEAR99のプラスチックケース、中国原産のEAR99のガラスレンズ、中国原産のEAR99のスイッチ、シンガポール原産のEAR99のロングライフバッテリー、ベトナム原産のEAR99のスクリューが使用されます。

(前提条件: 価格)
- 米国からのレーザー (6A005) は1,000個当たり$8,800で、輸送・保険料はそれに追加で$200
- シンガポールからのバッテリーは中国へのLanded cost で100個当たり$3,900
- 4A994のコンピューターチップは1個当たり$8
- プラスチックケースは1個当たり$0.5
- ガラスレンズは1個当たり$0.5
- スイッチは1個当たり$1.80
- スクリューは1製品に2個必要で2個で$0.20
- プロフィットマージンは1製品に$22、でポインター製品の販売価格は$81

(状況と質問)
- 米国原産比率 (6A005)は $9/$81で、11.1%となる。
- 営業のマネージャーからあなたへの質問です。この製品は輸出ライセンスなしにインドへ輸出できるか? また、もし比率が25%を超えていればどうか?
- 引き続き質問、この製品をイランで売りたいんだけど可能か? もし販売価格を$91にすればどうか?
- この製品をキューバ、北朝鮮、スーダン、シリアへの輸出はどう?

(答え)
- はい、インドへは輸出可能。6A005はCIVも適用できるし、GBSも適用可能。(インドはカントリーグループB) また、インドへは米国の原産比率が25%を超えても可能。
- イランへはDe Minimis は10%が境界線。この製品は11.1%ということで、イランへの輸出は不可。しかし、販売価格を$91にすれば10%を切るので De Minimis基準はクリア。ただし以下を注意。
- その他のATの国もDe Minimisは10%がライン。なので販売価格$81では輸出不可。また、販売価格$91なら、中国の企業が行うのであれば可能。ただしイランやスーダンへは米国人が、その中国企業の行為を手助けするということであればOFACの禁止事項に抵触するので不可。
(Note: General Prohibition in OFAC 560.420 note 1) 


De Minimis のケーススタディとしては内容は単純で初級編なのですが、前提条件だけ実際ありがちな状況にするために少し複雑にしてみました。書いてて少し疲れました。。。
まあこのようなスタディは自宅で酒を飲みながらすることはお勧めしません。
また、このケーススタディはDe Minimis の計算にフォーカスした空想問題で、実際の輸出ではエンドユーザースクリーニングなどその他の条件もありますので、ここから推論して実際のケースに適用するのは止めてください。あくまで理解を助けるトレーニング目的のためのものです。ついでにルールは時を追って変わりますので必ず最新のルールを参照を。

2010/05/28

タイ税関、違反自主申告の期間限定キャンペーンを始める

Customs compliance の仕事をしていると、故意でない関税法違反を見つけることがあると思います。
(例: 関税税番の誤り、関税評価の間違い、特恵措置の誤った適用などなど)
そういった場合は自主開示して申告 (Voluntary Self-Disclosure - "VSD") をすれば、後で税関に事後調査で発見されてペナルティを課されるより軽い罰金ですむことがあります。

タイもそうなのですが、今回、タイ税関では「通常の自主開示よりもさらにペナルティが軽くなる」自主開示キャンペーンを2010年9月15日まで行うそうです。これは実は以前にもおこなったことがあるそうで、再実施となります。以下がその話の概要になります。 ただしこのキャンペーンプログラムは全ての輸入者に適用されるわけではなく、税関からのinvitation が必要とのこと。まさに「限られたお客様のあなただけに贈る期間限定ボーナスキャンペーン」です。


"タイ関税局は、事後調査局が2010年5月15日から2010年9月30日までの間、自主開示プログラムを再実施することを許可した。これにより輸入者・輸出者およびその関連企業は、自身を監査し、その自主監査結果から発見された違反の可能性のある事案や関税法違反を自主開示することが可能となる。

輸入関税や税金が不足(例:関税税番の誤り、アンダーバリューでの申告、特恵措置やBOI 特権の使用ミスなど)であると関税局へ違反の可能性のある事案や関税法違反を自己申告した者は、輸入関税とVATのペナルティーを免除される資格が得ることができ、輸入関税とVATの不足分及び1ヶ月につきVATの1.5%の延滞税のみが課せられる。この免除措置は下記の条件が附される。

1) 違反の可能性のある事案や関税法違反は故意に行われたものではない、及び
2) この自主開示プログラムへの参加権利は、一つの会社に一回のみに限られている。(以前にこの権利を利用した企業は、今回のプログラムへの参加は不可。)

規制品目の輸入許可なしでの輸入や、税関への正規の輸入申告なしにハンドキャリー又は密輸によりタイ国内に輸入した者は、故意の関税法違反として見なされ、その場合は税関の自主開示の規定によりペナルティーを取消す資格の取得はできない。
よって関連する企業は、関税法規を遵守し違反リスクを低減する為に、この自主開示による貴重な機会をぜひ利用し、違反の可能性のある事案があれば関税局に2010年5月15日から2010年9月30日までの間に申告をすることをお奨めする。"

2010/05/27

中国の暗号規制をひもとく

先月の北京で行われた輸出管理サミットでは興味深いプレゼンテーションが多く聞けました。
その一つで、ある大手法律事務所のプレゼンで中国の暗号規制についてすごくわかりやすく解説されておられました。その内容サマリーをご紹介します。

1) 中国の暗号規制のいきさつと成り行き
  • 1999年に導入され、輸入、販売、使用、研究開発及び中国国内での商業用暗号製品の製造に関して規制をかける
  • 管轄は SEMB (State Encryption Management Commission - 国家暗号管理局)

2) 1999年の導入時の特徴

  • 商業暗号製品の研究開発、生産、販売、輸入及び使用にはSEMBの事前の認可が必要
  • 外資系企業はSEMBの認可なしに、中国で開発された暗号技術を使用した商業暗号製品の製造や販売はできない。
  • 特に暗号の研究開発には強い制限がかかる。
  • 外国で開発された暗号製品は、中国輸入に際しては、外資系企業の内部使用であれば可能。

3) Core / Non-Core の区別

  • 2000年に出された通達では、暗号規制は、暗号の使用が"Core"機能となる製品にのみ課される。
  • 例としては、PCのオペレーティングシステム、テレビゲーム、携帯電話など
  • SEMBは Core / Non-Core の解釈についてのガイダンスはそれ以降出していない。
  • SEMBには違反摘発のリソースはないし、Core / Non-Coreの判定は自主判断にまかされている。

4) 2007 年から 最近の動向

  • ライセンスの運用について: 外資系企業は外国で開発された商業暗号製品の使用について中国国外との接続については許可され、使用のライセンス・輸入のライセンスの手続き方法が紹介された。
  • しかし、Core \ Non-Coreの区別解釈については依然として不透明なまま。
  • SEMBと中国税関との合同メッセージで輸入許可運用が出された。
  • 2010年の中国関税分類番号で9つの新しい暗号製品を指定(10桁レベル)、例としては8517.62.2910 - Optical Communication encrypted routers など
  • キャッチオール条項もあり、それ以外の関税分類番号でも、輸入者が暗号技術があると「知っている」あるいは「知るに足る」場合もカバー。
  • 例外: 暗号製品が請負製造業者にて輸入されて輸出される場合、暗号製品が一時的に輸入され中国税関の監督下にあり輸出される場合、あるいは保税域内・輸出加工区にある場合など

5) グローバルの暗号規制と中国の比較

  • レジーム: グローバルではワッセナーの規制だが、中国はワッセナーメンバーではなく独自の暗号規制
  • 規制タイプ: グローバルではキー長やアルゴリズムでの規制だが、中国は"Core / Non-Core"が規制の基準
  • 規制のスコープ: グローバルでは通常、輸出規制のみ。しかし香港など一部のアジアの国では輸入も規制。エンドユース・エンドユーザー規制や米国では「見なし輸出」や「再輸出」も規制。中国では輸入、販売、使用、製造、研究開発への規制。
  • 暗号を海外製と自国製で区別: グローバルでは区別なし、中国では区別する。

6) 企業への実際的なアドバイス

  • 製品の分類
  • 税関とSEMBへの対応
  • 規制実施状況のモニター
  • 貿易団体との密な連絡

最後の「実際的な」アドバイスは対して役に立つようなものはありませんし、ブログ内で文字だけにしてしまうといまひとつです。しかし、実際のプレゼン説明はわかりやすく簡潔にまとめてあったので、非常に優れた内容でした。

2010/05/25

Unverified Listに載るには?

先月の北京で行われた輸出管理サミットでは興味深いプレゼンテーションが多く聞けました。
その一つをご紹介します。

ある米国大手機械メーカーのトレードコンプライアンスマネージャーのプレゼンで、"U.S. Export License Conditions and Scope Limitations" というのがありました。
ライセンスの許可条件や、そのカバーする範囲など、つまりはライセンスの附帯条件に関して詳細な講義をたっぷりうけました。全ては書ききれませんが、おもしろいと思ったのは、Unverified List についての説明でした。

米国の輸出ライセンス申請に際しては、(これは日本も同様ですが)、附帯条件が付されることがありますし、申請の前で調査しなければならないこと、輸出後の30日以内の報告義務などもあります。
米国大使館にはSpecial Agents overseas - Export control Officers (ECOs)が駐在している都市もあります。北京、香港、アブダビ、ニューデリー、モスクワなどの都市がそうで、ECOは米国の輸出管理のPre-License Check や Post Shipment Verifications なども行います。

具体的には、輸出ライセンスの申請でconsignee として名前があるこの会社は本当に実在する会社なのだろうか、許可に基づいて輸出された特定の製品は申請通りのエンドユーザーの元にちゃんと設置されているのだろうか(移転されていないだろうか)、などを確認調査したりします。

このような確認調査で、事実と異なる様子が発見された場合は、許可条件違反となりますし、ペナルティも1件につき$25万ドルあるいは価額の2倍がしっかりと課されます。

Unverified List はこのような違反で、存在が確認 (Verify) できなかった米国外のentity をリストして、Red Flag つまり「怪しい」出荷先だと、警告を発しているわけです。
http://www.bis.doc.gov/enforcement/unverifiedlist/unverified_parties.html

Unverified List はDenied Persons List やEntity List に比べていまひとつマイナーな(?)存在のリストですが、過去に怪しい前歴があった事実があるentityです。BISのウエッブサイトを読むだけでなく、このように詳しい方からじっくりと説明を聞くとよく理解できますし、やはり要注意リストですね。

しかしライセンスの附帯条件だけの講義で40枚のスライドを準備され、1時間近くお話されました。
全部の内容はブログに書ききれませんが、このプレゼンターの方の知識と経験の豊富さには脱帽でした。

2010/05/24

NORINCOの優れたコンプライアンス

NORINCOとはCHINA NORTH INDUSTRIES CORPORATIONの略で、実は経済産業省がキャッチオールコントロール規制の中で外国ユーザーリストに掲載している、要は大量兵器拡散の要注意企業ということになります。

実は、このNORINCOですが、自社内ではInternal Compliance Program ("ICP")を保持し、しっかり社内で輸出管理をしていることをアピールしています。

先月に北京にて開催されたExport Control Sumit (*)にてNORINCOがプレゼンを行い、いかに彼らが優れたICPを保持・実施しているかを力説しておりました。

(*) 筆者はこの会議に参加し、発表を聞いてきました。参加企業は主に米国系大企業とその中国法人。ですので米国人のリーガルカウンセル、シニアーマネージメント、トレードコンプライアンスマネージャー、米国BISや米国大使館から、米国人および中国人が大半でした。
日本企業は参加しておらず、日本人も(私を除いて)参加された方はいらっしゃらなかったようです。

その中でNORINCOICP Implementation について素晴らしいプレゼンを行いました。
その要旨は:

  • 確かに軍需産業品目も扱っているが、機械・鉱工業・輸送・インフラ関連の民生品ビジネスが今や売上の85%を占める
  • Weaspon of Massive Destruction ("WMD")の拡散ビジネスには全く関与せず、企業ポリシーとして明確に否定し、ICPでもBasic Value としてWMDには一切関わらないことを宣言
  • ICPでは企業コミットメント、組織としての責任の明確化、コンプライアンスプロセス、教育・トレーニング、記録保持、監査の手続きを明確に定めている
  • 中国国内の法令順守、国連安保理の決議への賛同、国際平和への協力・サポート
  • 社長直轄のICP Council を設置し、コンプライアンスの責任機関とする。またICP Office を日常業務やICP Councilの事務局として設置。
  • Automating Compliance ProcessをITシステムとして導入、自動でトランザクションのコンプライアンスチェックを実施
  • 社外監査として、米国のUniversity of Georgia Center for International Trade & Security からレビューを受ける

このような内容で、ICP implementation の事例としては文句の付けようがなく、ベストプラクティスとして紹介できる内容でしょう。まさに「優れた輸出管理を行っている企業」であり、日本国内ではこのレベルまでには到達していない企業はたくさんあります。

しかし、NORINCOをグーグルでサーチすると、武器取引での後ろ暗い過去や、米国政府からも制裁リストに載ったなど、「要注意取引先」を示唆する過去は簡単に見つかりますし。今現在も外国ユーザーリスト掲載企業ですので、いくら優れたICPを持っていても、輸出に際してはキャッチオールの需要者案件に該当することには変わりありません。

NORINCOに関するこの2つの対照的な事実は、どう解釈すれば良いのでしょうか? いつか外国ユーザーリストからはずされる日が来るのでしょうか? 外国ユーザーリストは毎年のように改正されますので次回の改正、おそらくもうすぐでしょうが、少し注意してみてみたいですね。